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東京地方裁判所八王子支部 昭和50年(わ)472号 決定

被告人 H・I(昭三一・五・二〇生)

主文

本件を東京家庭裁判所八王子支部に移送する。

理由

本件公訴事実は「被告人は、少年Aと共謀のうえ、昭和五〇年三月五日午後一一時一五分ころ、神奈川県川崎市○○区○○×××番地先路上において、同番地のスナック「○ル○ミ○ク」から出てきた○牟○修(当時二三歳)、○石○二(当時二二歳)を認めて、右両名から金銭を強取しようと企て、右両名に「一緒に飲みにいこう。」と誘いかけて同区○○××番地○浩○方前路上まで連行し、同所において、被告人が右○牟○に対し、所携の洋傘で顔面等を数回殴打し、同人を路上に転倒させるなどの暴行を加え、Aが右○石の顔面を洋傘や手拳で殴打し、更に膝蹴りするなどの暴行を加え、右両名の反抗を抑圧して右○牟○から現金一万円を、右○石から現金五三〇円をそれぞれ強取し、その際、右暴行により右○牟○に加療約二週間を要する顔面多発性挫創、右○石に入院加療一ヵ月間を要する前頭骨骨折の各傷害を負わせたものである。」というのであつて、右事実は当公判廷で取調べ、各証拠によつて明らかであり、被告人の右所為は刑法二四〇条前段、六〇条に該当する。

そこで被告人の処遇が刑事処分でなければならないか、少年保護処分によるのが相当であるかについて考えるに、被告人は本件犯行において終始主導的地位にあつたこと、犯行の動機がよくないこと、無抵抗の被害者らに執拗な攻撃を繰り返した犯行の態様、結果の重大さのいずれの点においても情状酌量の余地のないこと、しかも被告人はシンナー吸飲で家裁に事件係属が七回にも及んだ末、本年二月一九日に試験観察開始後、半月足らずで補導委託先を無断で外出し、飲酒の上本件犯行に及んだもので、非行性の昂進がうかがわれること、悔悟の念の薄いたと等からすれば被告人に対しては刑事処分が相当とも考えられるが、一方被告人は犯行当時一八歳九か月の少年であつて、思慮分別もまだ未熟であつたと見られるうえ、前記シンナー遊び以外に前歴や前科はなく、刑法犯は本件が初めてであつて、非行性が昂進しているとはいえ、まだそれが固定するには至つていないと認められること、被告人は社会性の欠如、規範意識の未発達が目立ち被影響性、衝動的傾向が強く、犯行への抑制機能が乏しい等の性格傾向を有しているが、それらの性格はいずれも今後の矯正の可能性が認められること、被告人はいまだ施設における矯正教育を受けた経験がないこと、少年鑑別所における作業に熱心さを示している点に将来の社会適応性の涵養と性格矯正への契機を見出しうること、両親の生活態度・指導監督能力の欠如などの家庭環境が被告人の非行化に大きく作用していると思われること等を考慮すれば、より重い傷害を与えた共犯者Aが少年院送致処分を受けたこととの処遇の均衡という観点からも被告人の処遇は刑事処分によるよりはむしろこの際一定期間施設に収容保護し、その間家庭環境の調整をはかると共に、被告人に対し適切な指導監督をほどこし、性格の矯正とその健全な育成をはかることが、少年法の精神に最も副うものと思料されるので、少年法五五条により本件を東京家庭裁判所八王子支部に移送することとし、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項但書により被告人に負担させないこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 和田保 裁判官 伊東正彦 小原卓雄)

参考 受移送審決定(東京家八王子支 昭四八(少)二八〇二号・昭四九(少)二八四八号・同三八三五号・同三一三八号・昭五〇(少)四六七号・同一九四号・同三一二七号 昭五〇・九・二六決定報告四号)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

1 非行事実

(1) 司法警察員作成の昭和四八年一〇月二五日付、昭和四九年九月九日付、同年一二月三日付、昭和五〇年一月二七日付、同年二月一八日各少年事件送致書、昭和四九年一〇月一六日付検察官指示の同月一一日付司法警察員作成の少年事件送致書のとおりであるからこれを引用する。

(以上要旨・少年は昭和四八年九月一一日から同五〇年一月二五日までの間九回にわたりシンナーを吸入・所持し、昭和四九年七月二三日にあいくち一振を所持していた)。

(2) 少年は、少年Aと共謀のうえ、昭和五〇年三月五日午後一一時一五分ごろ、神奈川県川崎市○○区○○×××番地先路上において、同番地所在のスナック「○ル○ミ○ク」から出てきた○牟○進(当時二三歳)、○石○二(当時二二歳)を認めて、右両名から銭を強取しようと企て、右両名に「一緒に飲みにいこう。」と誘いかけて、同区○○×××番地○浩○方前路上まで連行し、同所において、少年が右○牟○に対し、所携の洋傘で顔面等を数回殴打し、同人を路上に転倒させるなどの暴行を加え、Aが右○石の顔面を洋傘や手拳で殴打し、さらに膝蹴りするなどの暴行を加え、右両名の反抗を抑圧して右○牟○から現金一万円を、右○石から現金五三〇円をそれぞれ強取し、その際、右暴行により右○牟○に加療約二週間を要する顔面多発性挫創、右○石に入院加療一ヶ月間を要する前頭骨骨折の各傷害を負わせた。

2 法令の適用

(1) 毒物および劇物取締法違反の事実につき、同法第三条の三、第二四条の四、同法施行令第三二条の二

(2) 銃砲刀剣類所持等取締法違反の事実につき、同法第三条第一項、第三一条の三第一項

(3) 虞犯の事実につき、少年法第三条第一項第三号

(4) 強盗致傷の事実につき、刑法第二四〇条前段、六〇条

3 処遇理由

(1) 前示強盗致傷事件については、当裁判所において、少年法第二〇条により、検察官送致となり、東京地方裁判所八王子支部に起訴されたが、昭和五〇年九月二二日同裁判所において、少年を保護処分に付するのが相当であるとして、少年法第五五条により当裁判所に移送されたものである。

(2) 少年は、昭和四七年六月ごろシンナー吸引をはじめて以来、漸次嗜癖化するに至り、父母において少年を多摩病院に入院させるもこれを絶つことができなかつた。

高校中退後は就職の途を選んだものの、シンナー吸引のため長続きせず、数回転職し、昭和五〇年一月以降は徒食していた。

少年のシンナー吸引等の事件係属が七回に及んだため(前示非行事実(1)など)、当裁判所は昭和五〇年二月一九日少年を試験観察に付するとともに、○洋○リ○ニ○グ店(川崎市○○区在)に少年の補導を委託した。

しかるに、少年は半月足らずで、補導委託先の同僚少年と無断で外出し、飲酒のうえ本件強盗致傷事件を犯したものである。その動機・態様・結果の重大さなどいずれの点も情状酌量の余地はないものである。

ところで、少年は右事件当時一八歳九ヶ月であつて、思慮分別もまだ未熟であつたとみられるうえ、昭和四八年六月二八日シンナー吸引により不処分決定を受けた以外前歴・前科はなく、非行性が固定化するに至つているとは認め難い。

少年には、社会性の欠如、規範意識の未発達が目立ち、被影響性、衝動的傾向が強く、非行に対する抑制機能が乏しい等の性格傾向のあることが認められるけれども、鑑別結果通知書、調査報告書、審判時における少年の態度等を総合すると、それらの性格はいずれも今後矯正していくことが可能であると考えられる。

まだ少年の非行化には両親の生活態度、指導監督能力の欠如などの家庭環境が大きく作用していると思われる。

(なお共犯少年Aは中等少年院送致処分を受けている)。

(3) 以上によれば、少年に対し刑事処分を科すことは相当とはいい難く、一定期間施設に収容して、家庭環境の調整をはかるとともに、少年に対し、適切な指導監督をほどこし、性格の矯正とその健全な育成をはかることが適切であると思料する。

よつて少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 浜崎浩一)

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